学校を出てから仕事を一人前にこなせる様になった頃、兵役の為の招集礼状が来ました。昔の人達は皆、兵役を受けなければならない様になっていました。
召集された敦賀の連隊に入隊し、教練を受けなければいけなかったのでした。
兵舎に入ると兵舎の中で幽霊が出ると噂がありました。訓練の厳しさから死んだ兵士等の霊であるらしいのでした。
景介はそれらしい情報を聞いていたので、京都に居たころ始めていた皇大神宮のお下がりであった御洗米を持って来ていたのです。
この御洗米を頂いていると元気になると固く信じていたのです。
点呼の時、景介の持ち物に不審物がある事を発見されるのです。
「オイ、大谷、一体これは何だ」
「ハイ、御洗米です」
「お前は、こんな物を信じとるんか」
「ハイ」と答えると、医務官から洗米を取り上げてしまいました。
しかし、かたくなに返してほしいと求めると、医務室で飲みことを条件付きで許可されました。
この様に誠に生真面目な心の人だったのでした。
兵役中に、母親のシデさんの危篤の知らせを受けました。休暇を貰い村に帰るが、母は一命を取り止めるのです。それからしばらくして母親死すの報を受けるのです。
母シデさんは大変人情深い方でした。村で困っている人があればこっそり援助されていました。とても奇特な方でした。
「この様なやさしいお母さんが何故、腸閉塞で他界せねばならんのだろう?」と景介の心の中でズーッと疑問になっていたのでした。
後々霊界見聞により母親本人に会われることになり、ご本人が申されるには「あれで良かったのじゃ、あれが為に救うて戴いたのじゃ」と。人間の眼から不幸なものでも、偉大な神心から見ますと、永遠の霊魂の歴史から見ると、救いになっている事なのでした。
司完師は、この出会いのチャンスを活かされ、お母さんの精霊を瑞霊神に祈られ、神の救いにあづからしめられているのでした。
この様に司完師の天よりの御使命は、救い主、瑞霊神に祈りを届け、神縁の人々を神の救いにあづからしめることですが、この軍隊時代には、知るよしもなかったのでした。
軍隊の訓練で一番厳しいのは、長距離行軍だったのです。重装備のままでの行軍は心身ともに疲れ切ってしまうのでした。
長距離行軍で帰途についている時でした。もう少しで師団の営舎に着く時、小川の端で倒れてしまいました。
この時、司完師の精霊は皆と一緒に行軍し終え、散会の点呼を受けていて、肉体は医務室の廊下横に置かれた状態となっていました。即ち、霊身が肉体より抜けて別行動する「霊肉離脱」の状態でした。
廊下に横たえられていた、景介のすでに死んでいるとされている仮死の肉体を見つけた看護見習兵は、この際実験したいと思って心臓マッサージしたり蘇生の処置を始めるのです。
すると体が少し動くので軍医を呼びます。軍医は、電燈で眼球を照らし、鼻口にアンモニア水をつけると目覚めて一命を取り留めたのでした。
この行為をした見習兵は、人命救助で師団長より表彰されたそうです。
これは一時精霊が自分の肉体を離れた事は、間違えないのですが本当の霊界ではなく、現世にもっとも近い霊界(幽界と云われている)で肉体にまだ魂の緒がつながれているので、肉体に戻らなくてはならんのです。
この魂の緒が、完全に切り離されたら死んでしまいます。