景介は村の神社の境内でよく村の子供達と遊んだ。時には遊び過ぎて、家での決められた仕事を忘れることがあり、姉や母が代わってそれをしてくれていた。
景介の仕事は風呂の水を汲むことで、近くの川から汲んで来るのは、それなりの体力がいった。
ある日、友達と神社の境内で遊んでいると、社殿の傍で風呂敷包みを枕にして寝ている老人がいた。皆は怖がって、老人に近づく事をしなかったが、景介は臆することなく話かけた。
そしてその男の白髪を抜いてやろうと云って抜いたのであった。その男はお礼に手相を見てくれた。
老人は「坊は大きくなったらな、学校の先生か神主さんになるんやで」と教えてくれた。
家に帰り、神社で不思議な老人の話をすると、父は血相を変えて近隣の男達を集めて神社に向かった。その時代にも村の子供をかどわかす者がいて、村をあげて防止策を考えられていた時だったのです。
父親達が神社に行った時には、すでに老人は居らず、その後も村人達も一度もその姿を見る事がなかった。
しかしながら、この時の老人の助言が景介の脳裏に深く焼き付けられて、離れなかったのでした。
景介は3、4歳頃より夢を見ていたのです。目に赤や黒の色を塗りつけた、丁度芝居の暫らくに出てくる役者顔の夢を見て、怖くてよく夜泣きをしていたそうです。この夢も次代に来る景介の将来を示すものとして、次第にその内容が変化して行ったそうです。
霊覚は「夢」から始められるのが、正常な形であるとも語られているのです。
下校途中、ススキや木の枝の作る影が幽霊に思えて、怖かった様です。少し怖がりの処もあった様ですが、後々、霊や幽霊を嫌ほど見たりふれたりすることは、想像も出来なかったのでした。
母親は景介の人並みはずれた事を云ったりしていた事を不思議に感じて居られた様です。
例えば、おやつを事前に知っていたり、来客のある事等を前から知っていた様なのです。
又、日清戦争の勃発をも事前に知らされていた事を語られていたので、幼少の頃より、その能力の片鱗を覗かせて居られたのでした。